(1月12日、17日、24日に長野日報に掲載された原稿とオリジナル写真になります。)
国際指揮者コンクールにて~ミラノ前編
松枝洋二郎
昨年九月、イタリアのミラノで開催されたハンス・スワロフスキー国際指揮者コンクールに参加してきた。ハンス・スワロフスキー氏はウイーン交響楽団の首席指揮者も務めた世界的な指揮者であり、ウイーン国立音楽大学の指揮科の教授として数々のマエストロ達を導いた偉大な指導者でもある。主催者側に門下生の方がいて敬意を表して氏の名前を使用しているそうだ。
今回このコンクールに参加した理由は、前回のブカレストで自分の課題だと感じたことを、もう一度プロのオーケストラの前できちんと自分のやり方で示して、自分の音楽がどこまで通用するのかを確かめたかったからである。
幸い、このコンクールでは一次予選が非常に充実しており、ラウンドAではチャイコフスキーの弦楽セレナードの四つの楽章の中から一曲を、ラウンドBではモーツァルトのクラリネット協奏曲の三つの楽章の中から一曲を、それぞれ十分間の時間で指揮させてもらえる。ブカレストでは十分間で二曲を指揮したのに比べて、時間的な余裕があるのが嬉しい。
事前審査では一九八名の応募があり、書類審査とビデオ審査で選ばれた六八名が一時予選に参加した。参加者は世界各国から集まっており、日本からも十名以上が参加していた。
コンクールの日程は六日間で、二日目までが一次予選ラウンドA、四日目までが一次予選ラウンドB、五日目が二次予選、六日目がセミファイナルとファイナルという日程であった。二次予選の課題曲はイタリアのオペラから、「セビリアの理髪師」序曲、「ナブッコ」序曲、「マノン・レスコー」間奏曲、セミファイナル以降は「新世界より」の四つの楽章の中から一曲であった。
前日到着・翌日帰国の七泊八日の日程だったので、ホテルではなく滞在型のアパートに宿泊した。四日目の夜に一次予選結果発表だったので、それまで全課題曲の指揮の練習を一日中繰り返した。

国際指揮者コンクールにて~ミラノ中編
松枝洋二郎
一次予選ラウンドAでは同じ東京音大からの参加者二名に続いての順番で、知りあいの指揮を見てからの出番で少し緊張が解れた。自分の前の参加者が指揮台に上がる時にくじを引くのだが、チャイコフスキーの弦楽セレナードは一楽章と四楽章が長いので、十分間の制限時間を考えると時間の短い二楽章か三楽章がいいと思っていたのだが、二楽章のくじを引いてほっとした。
二楽章は軽やかなワルツでテンポの変化も大きいので指揮法の技術が問われる曲である。指示を明確にするため、自分で歌いながら指揮をしてこういう感じに演奏してくださいと言ったところ、さすがプロオケで、一発で見事に私の指揮にぴったりと合った見事なアンサンブルを聞かせてくれた。正直一回でここまでうまくいくとは思っていなかったので、残りの時間も気持ちよく指揮させてもらったのだが、今思えばもう一歩踏み込んでより明確に自分の音楽を表現すべきだったのだと思う。
一次予選ラウンドBのモーツァルトのクラリネット協奏曲も一番短い二楽章になればいいと思っていたら、神様が応援してくれたのだろうか、同じく二楽章のくじを引いてほっとした。
二楽章はしっとりとしたソロの部分と華やかな合奏部をどう対比させるかが重要なので、この曲も合奏の旋律をこういう風に演奏して欲しいと自分で歌ったところ、楽団員の方が頷いてくれたので、私のやりたい事は十分伝わったと思う。後半部のテンポの変化をソリストに伝えて最後にやり直した時には、ソリストのブレスを感じながらオケをうまく合わせることができ、協奏曲の指揮はこうすべきなのかと理解した。最初からこの感覚で指揮できていれば、もっと良い演奏ができたのかもしれない。
四日目の夜、残念ながら予選通過者名簿に自分の名前はなかったが、今回二つのラウンドでそれぞれ今の自分の実力は十分発揮できたと思うので後悔はしていない。

国際指揮者コンクールにて~ミラノ後編
松枝洋二郎
二次予選には二十三名が通過した。私が聞いた中で一番良いアンサンブルだったと感じたのは東京音大出身の若いプロ指揮者の方だったのだが、残念ながら彼はセミファイナルには進めなかった。一方、個性的で最もインパクトがあると感じたのが、オランダと英国から来た二人で、結局彼ら二人がファイナルで同率一位優勝ということになった。
この結果からして、このコンクールで審査員が何を評価していたのかがよくわかった。一緒に参加した他の日本人参加者も言っていたのだが、コンクールではただ音楽を綺麗にまとめるだけではダメで、唯一無二の世界観を表現できる人だけが上位に入賞できるということらしい。
帰国後に事務局から審査員五名による講評コメントをラウンドAとラウンドBそれぞれに対していただくことができた。それぞれとても貴重なコメントで、自分がこれから何を勉強すべきか多いに参考になる内容であった。一言で言えば、音楽のセンスや表現力は褒めてもらえたものの、音楽の表現が表面的なものにとどまっており、自分ならではの音楽としてしっかり掘り下げられていないと評価された。イタリアを代表する著名な指揮者の方々からの講評であり、このコメントをもらえただけでも行った甲斐があったと思う。
今回プロオケの前で、自分の指揮できちんと自分の音楽が表現できる自信がついたことは大きかった。次にどのイベントに参加するかはまだ未定だが、目の前の本番一つずつを大切にしながら、機会があればまたいつか国際指揮者コンクールにチャレンジしてみたいと思う。
昨年は世田谷の弦巻区民センター祭りでオケの発表、大田区吹奏楽祭で吹奏楽団の発表、諏訪養護学校での女声合唱による慰問演奏と続いたが、今年から新たに神戸アンサンブル・ソロイスツという本格的な管弦楽団で副指揮者をやらせていただく予定で、今からその練習が楽しみである。

東京ディズニーランドのワールドバザールはこのガッレリアをモデルに作られている

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